現場レポート

 職 場 職 種  氏 名  記録日 
指定居宅介護支援事業所武蔵野 居宅ケアマネジャー 江口 徹 2016年7月 


            居宅介護支援専門員(ケアマネジャー)について

ケアマネジャー(略してケアマネ)は耳慣れない言葉かもしれません。「どんな仕事?」と聞かれることがあります。ケアは介護や支援、マネジャーは管理の意味があり、「介護を支援する為の管理業務」が主な仕事です。

ケアマネジャーは大きく2種類に分けられます。一つは特別養護老人ホーム、老人保健施設、有料老人ホームなどの施設入所者のケアマネジャーで、もう一つは居宅(自宅に住んでいる方)のケアマネジャーです。ここでは主に居宅ケアマネジャーについて説明します。 

ケアマネは誰でも直ぐになれる仕事ではなく、経験値を積んでから就くことができる職種です。様々な職種の実務経験など一定の要件を満たすとケアマネになるための試験を受けられます。

様々な職種には医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、視能訓練士、義肢装具士、歯科衛生士、言語聴覚士、あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師、栄養士、管理栄養士、精神保健福祉士があります。

資格要件は『相談・援助業務または介護サービス等の直接的な援助である業務に原則として5年以上または10年以上従事した経験のある者』であることが求められます。5年以上と規定のあるものには、医師、看護師、保健師、介護福祉士、社会福祉士などの国家資格か、障害者施設などでの相談援助業務への従事、介護保険施設などでの実務経験が該当します。その他の経験では10年以上となります。

受講者は介護職が最も多く介護福祉士を取得して次のステップアップとしてケアマネジャーになる方が多いです

合格率は約15%程(平成27年度)と難関です。ケアマネジャーの多くは介護福祉士からケアマネの業務に就いています。

しかし、『資格は持っているけどケアマネはやらない』方が約7割もいるのです。介護保険の資格の最高峰と言われていますが3割ほどしかケアマネ業を選ばない実情があります。なぜ人気がなく、魅力を感じられないのでしょうか。

理由は『仕事量が多い』『責任が重い』『仕事量に対して給料が安い』『ケアマネをするつもりはないけど、肩書きのためだけに取った』『今の仕事の方が給料は高く、ケアマネに転職すると給料が下がるからやらない』など様々です。

あまり知られていないのですが、条件にもよりますが、収入が介護職員より低いのです。介護職員は夜勤手当がありますが、ケアマネは資格手当てくらいです。ボ−ナスも介護職員は政府が見直しをした処遇改善交付金の手当てがあるので10万円程の差があります。

また、ケアマネはケアチームの一員なのですが、マネジメント業務のため、決断を迫られることが多くあります。事例を挙げると:

○利用者本人は認知症があり妥当な判断ができません。身寄りもいないので、これからも 自宅の生活を続けるのか、施設入所をするのかケアマネが決めて下さい。

○入院中の利用者に癌が見つかり末期であることが分かりました。病院ではもう手の施しようがありません。病院は治療する場所、死に場所ではないので早々に退院して自宅へ引き取って下さい。 

利用者の人生が左右されるため、かなりの精神的プレッシャーがのしかかります。結果が悪いと、「ケアマネの判断が間違っていた」「もっと他の選択肢があったのではないか」「ケアマネの力量不足だった」などど、責められることもあります。 

ある方から「ケアマネの仕事は、わざわざ面倒なことに首を突っ込み、何とかする仕事」と言われたことがあります。その通りだと思いますが、介護保険の中で“決断する”という特化した業務があること・・・これが『責任が重い』理由です。 

介護の仕事からキャリアを積み選んだ仕事ではあっても、経験値や年齢が考慮されず、責任は重い仕事にもかかわらず、見合った給料は支給されていないと感じている人は多いと思います。また、『仕事量が多くて大変』『責任が重い』と抱え込んでしまい、疲弊して、せっかく苦労して取った資格にもかかわらず、ケアマネを辞める方もいます。

しかし、このように大変と感じさせる仕事ではあっても、助けを必要とする人はたくさんおり、人々から感謝される仕事です。国を通しての教育や訓練、仲間からの励ましや助言が得られます。仕事から学ぶことも多く、やりがいがある仕事として、喜びをもって働いている人もたくさんいます。 


居宅ケアマネ事業所の収益

担当する利用者の介護度によりますが、担当1件につき収入(およそ1万〜1万4千円)が得られます。一人のケアマネが担当できる件数に制度上40件という上限が決められているので事業所の収益も限られます。

利用者とはケアマネ事業所との契約を最初に行い、次に相談支援へと移るのですが、利用者が介護保険のサービス(デイサービス、ヘルパー、ショートステイ等)を利用することがケアマネ事業所への収益が発生する条件になっています。

理解していただくために、言い換えますと、ケアマネが何度も足を運び相談に乗っても、利用者がサービスを使わなければ「タダ働き」と同じなのです。収益のないボランティアと同じです。これが背景にあり、サービスを使ってもらおうと躍起になり、不要なサービスへ繋げようとするケアマネもいます。基本的にサービスの利用の9割は公費で賄われているため、税金の無駄使いとならないように行政からは「適正給付」と言われています。

利用者の多くは「話を聞いてくれて有難い」「身内のことで誰にでも言えない話だし、来てくれて胸の内がすっきりした」「心が救われた」「困ったらまず、ケアマネに相談することにしています」「頼りにしています。また来てください」と悩みを抱えている利用者や家族から感謝の言葉を頂くことも少なくありません。

ケアマネは“大変なわりに儲からない職種”とも言われています。弁護士と同じような相談の支援料がケアマネにもあったら大きな助けになると思います。

利用者の中にはデイサービス、ヘルパーなどサービスの種類が増えるごとにケアマネ事業所へマージンが入ると思っている方もいます。新たなサービスを追加すると「儲かってしょうがないでしょ」と言われたことがあります。すでに説明しましたように、収益は利用者ひとりに対して『月額制』なのです。

デイサービスだけ利用する方もいれば、デイサービス以外にも、ヘルパーを利用する方もいます。デイサービス、ヘルパーなどは『回数制』です。利用回数が増えればその収益は多くなります。しかし、ケアマネ事業所へ入る収益はそのサービスの量に関係なく決まっているのです。唯一、サービスを利用していただくことが、ケアマネ事業所への収益が発生する条件になっているのです。

 

ケアマネジャーの仕事

まず利用者や家族からケアマネの担当依頼を受けて、利用者宅を訪問します。そして契約、相談、保険者へ書類を提出し、アセスメント(困りごと、問題点などの課題分析)、サービス事業所の紹介や見学の付き添いを行い、ケアプラン(計画書)の作成をします。その後、利用しているサービス(デイサービス、ヘルパーなど)の顧客満足度を確認するため、毎月自宅へ訪問して利用状況を確認するモニタリング、それら行った業務をパソコンへ打ち込む支援の経過記録をします。

以上の全てを行っていないと、ケアマネの業務怠慢と見なされ『減算』となり事業所の収益が減らされます。基本的にケアマネの仕事は、ひとりで全てをこなさなくてはいけません。介護現場のように、早番が積み残した業務を遅番が引き継ぐような連携はないのです。

人相手の仕事、まして要介護の高齢者、生活が不安定な方もいるので、突発的な訪問で対処せざるを得ないことも多々あります。おのずと記録などの業務は後回し。定刻で上がれないこともあります。

利用者の家族も様々です。

○老老介護(高齢者が高齢者を介護している)

○認認介護(認知症の方が認知症の方を介護している)

○主になる介護者に精神疾患があり、介護を担えない状態(結果的に放置や虐待となる)

○高齢、認知症、精神疾患などから適切な判断が出来ず、ケアマネに依存する利用者本人、家族。

またゴミ屋敷、ネコ屋敷もかなり増えています。

あくまで契約は利用者本人と行っているのですが、家族と切り離すことは出来ないので、家族支援も必要な方々がとても多くなっています。

他にボランティア業務を行うことが必要になることもあります。

事例を挙げると・・・。

○『大雪で自宅のドアが開かない。雪の重みで家がみしみしして怖い。外がどうなっているのか分からない、どうしたらいいのでしょうか』

⇒スコップ持参、大雪なので徒歩で訪問。玄関、通路までの雪かきをしました。 

○『病院へひとりで行くのが大変。薬は欲しいけど、先生の言葉はきついし怖いので、一緒に行ってくれませんか』

⇒通院の付き添いをすることもあります。

○「大きな鏡台を動かしたいけど、とても重くて動かせないので困っています」

⇒ケアマネ3人で訪問。鏡台の移動を行いました。

 担当ケアマネが休みでも、利用者から『困っています。急いでなんとかしてほしい』とSOS発信がある場合、事業所としての契約なので、担当以外のケアマネが対応することも多くなります。休みでも担当ケアマネしか分からないことがあると、担当ケアマネに連絡して対処することもあります。利用者からはそれほど頼りにされていることなのだと思います。

 『介護保険の中のケアマネジャー』なのですが、“生活”を支えるため、なかなか支援の住み分けが難しい仕事です。アウトリーチ、ボランティア精神がないと出来ない仕事でもあります。

 私は人の役に立ちたいと思いこの仕事をしております。ケアマネとして支援をしていますが、教えていただくことはたくさんあり、こちらが元気づけられて、支えられていると思うことがあります。頼られることは、やりがいとなり、日々の仕事の活力となっています。

 人間は皆いずれは年をとり高齢となっていきます。私もその一人です。他人ごとではないと思っております。

 本格的な高齢化社会に突入する日本において超高齢社会を支えるためには、介護に関わる全ての方々が安心して働けるように、大きな道筋を真剣に考える必要があると思います。

                                                      江口 徹         


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